マーケティングの担当者は「今月の商談は12件でした」と報告し、営業の責任者は「話が進んでいるのは3件だけ」と言う。どちらかが間違えているとは限りません。同じ「商談」という言葉で、別のものを数えていることがあります。
先に答えを書きます。「商談」として1つの数字にまとめられがちなものを、次の3つに分けて数えます。
- 商談設定数:初回の面談の日程が決まった件数
- 商談実施回数:検討を目的に、実際に行った面談の回数(何を「検討を目的に」とするかは自社で決める)
- 有効商談数:社内で決めた条件を満たした案件の数(1つの案件は1回だけ数える)
そのうえで、それぞれについて「1文の定義」「数えないもの」「誰がいつ判定するか」を決め、迷いやすい境界の事例を、あらかじめ数えるか数えないかで判定しておきます。冒頭の「12件」と「3件」は、例えば前者が商談設定数、後者が有効商談数であれば、どちらも正しい数字です。
背景:定義があいまいなまま、リードや商談がやり取りされている
商談の定義そのものを聞いた調査ではありませんが、マーケティングと営業のあいだの「定義」が問題になっていることを示す調査があります。
株式会社イノーバは、従業員数250名以上のIT企業に勤めるマーケティング部門責任者100名に調査しました(IDEATECH のリサーチデータマーケティング「リサピー」の企画によるインターネット調査、2025年5月20〜22日)。営業部門にリードを引き渡す際の課題(複数回答)で最も多かったのは、「リードの引き渡しの基準や定義が曖昧」の57.0%でした。対象は大きめのIT企業の責任者に限られているため、規模や業種の違う会社にそのまま当てはまる数字ではありません。
出典:株式会社イノーバ「【調査レポート】マーケティング部門責任者の57.0%が、営業部門にリードを引き渡す際の課題として『引き渡しの基準や定義が曖昧』と回答」(2025年6月18日発表)/株式会社イノーバ
受け取る営業の側の声もあります。株式会社IDEATECH の「BtoB企業のリードのミスマッチに関する実態調査」(リサピーの企画によるインターネット調査、2025年6月18〜19日)は、営業活動でマーケティング部門と連携し、マーケティング部門から提供されるリードを活用している BtoB 企業(BtoB と BtoC の両方を展開する企業を含む)の営業責任者・担当者315名が対象です。リードの品質に「あまり満足していない」「全く満足していない」と答えた148名に理由を聞くと(複数回答)、上位は「導入時期が不明確なリードが多いから」45.9%、「予算や決裁権の情報が不足しているから」42.6%、「購買意欲が低いリードが多いから」39.2%でした。
出典:株式会社IDEATECH「BtoB企業のリードのミスマッチに関する実態調査」(調査名。2025年6月24日発表)/株式会社IDEATECH
どちらもリードの引き渡しについての調査で、商談の数え方を分けるべきだと示したものではありません。ただ、営業が不満の理由に挙げた導入時期・予算・決裁権・購買意欲といった項目は、後で触れる「有効商談」の条件を考えるときの材料になります。ここから先の「3つに分けて数える」方法は、当社の提案です。
「商談」に混ざりやすい3つを分ける
「商談数」という1つの数字に、性質の違う数が混ざると、部門ごとに見ている数字がずれます。次の3つを別の数字として記録します。
| 商談設定数 | 商談実施回数 | 有効商談数 | |
|---|---|---|---|
| 測るもの | 初回の面談の日程が決まったか | 検討を目的に、実際に面談をしたか | 中身が伴ったか |
| 数える単位 | 初回の面談の設定の件数 | 面談の回数(同じ案件の2回目以降も数える) | 案件(1つの案件は1回だけ) |
| 数えるとき | 初回の日程が確定したとき | 面談をしたとき | 社内で決めた条件を満たしたと判定したとき |
| 主に使う場面 | マーケティングやインサイドセールスの活動量を見る | 営業の活動量を見る | 社内で決めた条件を満たした案件がどれだけあるかを見る |
3つ目の「有効商談」の条件は、会社ごとに決めるものです。教科書の中でも例は異なります。BDRの記事では、課題・時期・予算の見通しが立ち、具体的な解決策を提案できる打ち合わせを例に挙げています。インサイドセールスの記事では、課題が言語化できたうえで、予算感か次回の日程のどちらかを確認できたものを例にしています。正解は1つではありません。大切なのは、条件と判定の方法を文章にして、マーケティングと営業が同じ文書を見ることです。
なお、KPI指標の意味・設定例(セールス全般編)のように「商談件数」と「案件数」をほぼ同じ意味で扱う記事もありますが、本記事では数の混同を避けるために、面談の回数と案件の数を分けて扱います。
率を出すときは、同じ案件の集まりを同じ期間だけ追う
商談実施回数には、同じ案件の2回目以降の面談も入ります。そのため、「有効商談数 ÷ 商談実施回数」で率を出すと、何を割っているのかが分からなくなります。率を出すときは、同じ月に初回の商談を実施した案件をまとめ、どの案件にも同じ観察期間を設けます。例えば次のように定義します。
- 有効商談率:ある月に初回の商談を実施した案件のうち、決めた期間内(例:初回から60日以内)に有効商談になった案件の割合
このためには、案件ごとにIDを付け、初回の商談を実施した日と、有効商談になった日を記録しておきます。月ごとの有効商談数は「有効商談になった月」で数え、有効商談率は「初回を実施した月」の案件の集まりで数えるため、同じ月でも両者の数字は一致しません。初回から60日がまだたっていない月の率は、確定した数字として扱わず、「集計中」と分けて示します。直近の月ほど率が低く出てしまうためです。商談実施回数は、率の分母には使わず、活動量の数字として別に見ます。
迷いやすい事例を、先に判定しておく
定義の文章だけでは、現場で迷う事例が残ります。よく迷う事例を表にして、3つの数字のどれに入るかを「数える/数えない/自社で決める」で先に決めておきます。以下は判定の例です。
| 事例 | 商談設定数 | 商談実施回数 | 有効商談数 |
|---|---|---|---|
| 初回の日程は決まったが、まだ実施していない | 数える | 数えない | 数えない |
| 初回が相手の都合で延期になった | 数える(1件のまま。最初に日程が確定した月に残し、新しい予定日は別の項目で管理する) | 実施した時点で数える | 実施後に判定する |
| 当日、相手が来なかった | 数える | 数えない | 数えない |
| 初回として設定・実施したが、情報交換だけで終わった | 数える | 自社で決める(「検討を目的とした面談」に当たるか) | 数えない |
| 同じ案件の2回目の面談 | 数えない(初回のみ) | 数える | まだ有効商談でなく、この面談で条件を満たせば数える。すでに有効商談なら数えない(1案件1回) |
| 同じ会社の別の部署から、別の相談が来た | 別の案件とするかを自社で決める。別の案件なら、初回の日程が確定したときに数える | 面談を実施したときに数える | 別の案件なら、条件を満たしたときに数える |
新規の案件と、既存の顧客への追加の提案を分けて見たい場合は、案件に種類を付けて、別に集計できるようにしておきます。既存の顧客との定例の打ち合わせと、具体的な追加の提案も区別します。あわせて、運用で次のことを決めておきます。
- 有効商談かどうかを判定する人と、判定に迷ったときに決める人
- 案件を分ける基準(会社単位か、部署・商品単位か)と、面談を案件にひも付ける方法
- 判定の根拠として残す項目(何が確認できたか)
- 「まだ判定していない」と「条件を満たさなかった」を分けて記録すること
- 後から条件を満たした場合に、どの月の数字に入れるか
例:当社(プロレクト)の商談の定義
当社は、社内の指標の定義を1つの文書にまとめています。以下は、その文書(2026年10月9日更新の版)に収めている「商談」(2026年9月8日確定の v1.0)と「有効商談」(同日確定の v1.1)の定義の要約です。当社の運用の例として紹介するもので、この定義で数えた結果や成果を示すものではありません。
- 商談:無料相談などを経た後、当社の有償支援について具体的な検討を行うために実施された個別面談。情報交換、診断結果の説明のみ、ウェビナー後の相談、知人との雑談は含めない。この時点では、課題の整理・予算・次回の日程の合意までは必須としない。面談の回数で数える
- 有効商談:商談を実施し、①課題の言語化(必須)を満たし、かつ ②予算感の共有 または ③次回の日程の確定 のどちらかを満たしたもの。②は、相手から予算の枠が示された、または提示した価格に具体的な反応があった場合に成り立ち、こちらが価格を伝えただけでは成り立たない。案件の単位で数え、1つの案件は1回だけ。情報収集のみの面談、既存顧客の定例、採用目的の面談は数えない
- 判定のタイミング:初回の商談の当日に判定する。後日条件を満たした場合は、当日の判定を書き換えず、有効化した日とその根拠を追記する
本記事の3つに当てはめると、当社は「商談実施回数」と「有効商談数」を分けて定義しています。商談設定数は、この文書では指標として定義していません。また、無料相談の実施は、商談の手前の段階として、商談には含めていません。
当社の代表の武田は、MQL(マーケティング部門が営業に渡す見込み客)の定義のずれについて、X で「どちらが正しいか」ではなく「買い手のどの行動を、商談の入口とみなすか」で揃えるという見方を公開しています(2026年9月20日の投稿)。商談の定義でも、部門の都合ではなく、相手との間で何が起きたかを基準にすると、部門をまたいで合意しやすくなると考えています。
架空の例:定義を書いてみる
以下は説明のための架空の設定です。実在の会社の実績や、業界の標準を示すものではありません。
勤怠管理のクラウドサービスを提供する、従業員60名の会社(架空)が、次のように定義を書いたとします。
- 商談設定数:初回の面談の日程が確定した件数。インサイドセールスが記録する
- 商談実施回数:導入の検討を目的に、相手と実施した面談の回数。情報交換、既存顧客の定例、パートナー企業との打ち合わせは数えない。営業が面談の当日に記録する
- 有効商談数:面談を通じて、①相手の勤怠管理の課題を、相手の言葉で書き出せた、かつ ②導入を検討する時期 または 比較している他社 のどちらかが分かった案件。営業が初回の面談の当日にまず判定し、迷ったときは営業責任者が決める。後日満たした場合は、満たした月の数字に入れる
- 有効商談率:ある月に初回の面談を実施した案件のうち、60日以内に有効商談になった案件の割合
自社で確認すること
- マーケティングと営業が、それぞれ「商談」を1文で書けるか。別々に書いてもらって並べると、ずれている場所が分かる
- 「商談数」として報告している数字が、設定・実施・有効商談のどれなのか。混ざっていれば分けて記録する
- 数えないものの一覧があるか。情報交換、既存顧客の定例など
- 有効商談の条件と、判定する人・タイミング・根拠の残し方が決まっているか
- 率を出すときに、分母と分子が同じ案件の集まり・同じ期間になっているか。そのために、案件ごとのIDと日付を記録しているか
- 直近の商談を数件、新しい定義で数え直してみる。迷った事例は、境界の事例の表に足す
定義を決めたら、置き場所を1つの文書にまとめ、変更する人と、見直す日を決めておきます。
まとめ ── 1つの「商談数」を、3つの数字に分ける
商談の数がマーケティングと営業で合わないときは、同じ言葉に別のものが混ざっていないかを確かめます。商談設定数・商談実施回数・有効商談数を分けて記録し、それぞれに1文の定義と数えないものを決めます。有効商談の条件は会社ごとに決めるもので、正解は1つではありません。迷いやすい事例を先に判定し、率は同じ月に初回を実施した案件を同じ期間だけ追って出します。
リードの段階の定義については、MQLとSQLの違いの記事で扱っています。